カムカムWEB会員専用ページTOP > やましげ○○ぼっち

やましげ○○ぼっち Vol.70

2013/09/10 | 山崎 樹範 | やましげ○○ぼっち

保育園の運動会。
30年以上前の話である。
運動会の徒競走の定番でもあるが、途中で転んでしまった子が泣くのをこらえながらダントツのビリでゴールに向かう。
それが僕の2番目の記憶である。
おそらく父兄の方々から「頑張れ頑張れ!」といった応援や拍手なんかももらったのだろう。
膝を擦りむきながらも必死で走る僕を応援に来ていた両親はどんな気持ちだったのか?
僕は知らないし、おそらく両親も覚えてないかもしれない。

「ぼくちゃん・第2話」

作・やましげ

実は保育園の頃の記憶がもう一つある。
なんて事ない記憶だがはっきりと覚えている。
いや、なんて事なくない。
自分がどんな人間なのか物語る記憶。
ろくでもない男の原点。

保育園の体育の時間。
縄跳びの授業が終わり、片付けをしていた時の事。
縄跳びを四つ折りにして輪を作って先を通す。
もっとも定番だと思われる縄跳びの仕舞い方。
実はその時の僕には、まだその結び方が出来なかったのだ。
そして僕はそれを隠したかった。
そんな事が出来ないと思われるのが恥ずかしかったのだ。
いや、思われるも何も実際に出来ないのだからどうしようもないのだが…。
僕はとんでもなくプライドの高い子供だったのである。
正直今も自分自身のつまらないプライドには手を焼く。
今でこそ随分誤魔化すのが上手くなったが、当時まだ幼い僕はプライドが全開だった!
その時の僕がどうしたか?
嘘をついた。
隣にいた友達にこう言ったのだ。

「ボク、次の準備しなきゃいけないからこれ結んどいてぇ」

縄跳びを手渡し、自分の嘘の完璧さに悦に入ってその場を後にしようとした。
自然な言い回し、無理のない理由。
完全犯罪成立。
ほくそ笑んでいると後ろから声がした。

「しげのり君、自分でやりなさい!!」

先生の声だった。
振り向くと射抜くような目だった。
僕は愕然とした。
見抜かれた。
見透かされていた。
僕の小ささを。
僕の厭らしさを。
僕の醜さを。
あの時僕はどんな顔をしてただろうか?
汚ない心の内面を暴かれた小さな僕は、自分の見てる世界がいかに小さいかを思い知らされた。
完璧に嘘を演じきったと思っていた自分も、周りの大人から見れば浅ましいズル賢いと思い込んでいる矮小な存在。
あの時僕はどんな顔をしてただろうか?
きっと丸裸にされた人間の顔をしていただろう。

それから僕は自分で縄跳びを結んだ。
もちろん出来ないので四苦八苦しながら、顔を真っ赤にしながら、泣きそうなのを堪えながら…。
先生は優しく教えてくれた。
覚えてみたら簡単な事だった。
出来ないから教えて!と言えばすぐに済んだ事なのに、小さな(当時はおそらく大きな)プライドが邪魔をした。
あの時、先生が気づいてくれなかったらどうなっていただろうと思う。
嘘をつき続けたのか?
それは無理だ。
いつか破綻する。
長く嘘をついた分だけ、反動も大きかっただろう。
その間に嘘で塗り固めたプライドはどう決壊したか分からない。
自分の視野は180°しかない。
周りの人は360°の僕を見てる。
僕は僕の見えている世界が全てだと思っていたが、なんの事はない。
半分しか見ていなかったのだ。

と言っても、本気でその事に気付けたのは大人になってから。
幼年期のしげのり君に気付けるはずもない。
ただこの事がろくでもない男の原点だったなぁと今になって思うのである。
ろくでもなさはまだまだ続く。
きっと今も。

101209_2329


やましげ○○ぼっち Vol.70 はコメントを受け付けていません

COPYRIGHT(C) 2012 COMECOME MINIKI-NA OFFICE All Right Reserved.