何が本当のことなのか。何が正論なのか。全く見えない昨今です。これほどまでに、それまで自明だったことに対して信じられない世の中になり、いかにそういう自明なものに自分逹が何も考えず依存してきたのかということを思うと愕然とします。TVを全く見なくなりました。もう何かを誘導したり隠蔽したりするための嘘に取り囲まれていてはまともに暮らしていけない。そうです。3.11以後、もう僕らは、のほほんとしては暮らしていけない。

しかし演劇もまた、ある意味嘘をつくわけです。ただし、誘導されてるものや隠蔽されてるものを明らかにし、そういうものと戦うために嘘をつく。そういう気概だけはあります。であるからには、それを作る側が誘導されたり、騙されたりしていては話にならない。我々も五月に公演をうちましたが、その時にはまず、自分達は何ができるかと自問自答し、演劇を死ぬ気で一生懸命やるしかないと宣言し、気合をもって臨みました。あれから数箇月が経ち、社会は落ち着いては来ているが、実は何一つ改善などしていなくて、慢性的でなかなか解決しない問題に対して、なかったかのように振舞うことに社会が慣れてきたというだけのことです。簡単に言えば、喉元すぎて熱さを忘れた。そのことすら、誘導されたことである可能性が高い。ともすればあの五月の公演の時に、今から思えば、非常に視点が自分個人の振る舞いに対してのみ向いているようなところに、問題の焦点をもってきていた流れもまた、あの当時の空気の中で出てきたもの、落ち着いて元に戻さないといけないという空気、外ではなくて自分の内にこそ、平静を取り戻せという、何か、それも巧妙に誘導されてた気がしてならないのです。

もちろん演劇をやる立場にいるからには、自分がやることは演劇なんだけれども、それを死ぬ気でやるだけなんだけれど、要はそれだけじゃなくて、中身が問題なんだってことです。五月の公演の中身を反省してるわけじゃありません。でも何かあの時よりも今、一層何倍も中身が重要なんだと思います。中身というのは思想です。その思想の背後にある情報と知識です。その段階において、あまりに巧妙な空気による誘導と隠蔽を、意識的に迂回できているかどうかです。元に戻すのではなくて、根本的に変えないといけない。政治だけの話をしているわけではありません。我々自身の考え方をです。意識的に抜け出さないといけない沼がある。

いきなり具体性を欠く話で申し訳ありませんでしたが、そんなわけで「かざかみパンチ」という芝居をやるにあたって、このタイトルは一年前にすでに発表されたもので、当初考えてた構想と根本的に変わっては来るのですが、具体的な内容についてはギリギリまで、見極めていこうと思っています。だから一応あらすじのコーナーもありますが、話の中身は、ギリギリまでもがき続けるつもりです。11月までに日本はまた大きく変動するでしょうから。あるいはこのまま。何も変わらずこのままってこともある。それはそれで大きなことです。

チラシのイメージは、何か思ってることを断片的に言葉として羅列していく中でデザインしてもらったものです。パンチ、つまり拳はもちろん怒りの鉄拳であります。人が拳を握る時…それは必ずしも暴力に繋がるものではありません。ガッツポーズという拳もある。決意の拳もある。そんな心と拳の相関関係が軸になるでしょうか。

かざかみは「1989」でも出てきました、かざかみの国。これは故郷奈良にて進行中の古事記編纂1300年プロジェクトもあって今年と来年は僕の中で古事記が指標。というわけでこのかざかみの国とは、古事記に出てくる出雲の国のイメージです。かつてヤマトの国以前に日本を広域に渡って支配したかもしれない出雲国。唐突になくなったこの国をめぐる、後発のヤマト朝廷の誘導と隠蔽の暗闘が古事記であるとも言われます。ムーやアトランティスのように、あるいは三陸地方の津波にのまれた広大な土地のように、あるいは何十年も人が立ち入れないかもしれない福島の避難地域のように、一国レベルの文化が突然消え失せることが歴史にはありえるわけで、そこにどんな国があったのかということ、どんな人々が暮らし、国が滅びるときにどんな悲劇が起こったのか、それは信じられないほどすぐに忘れ去られることです。今の我々を顧みればわかります。あるいはそこには忘れ去るように仕向ける陰謀もあるかもしれないわけです。その痕跡が古事記に隠されている可能性がある。まさにタイムリーなのです。古事記は。

忘れるということに対して戦う武器は、物語です。古事記は誰もが忘れない物語にして出雲の時代の記憶を後世に伝えた。古事記を暗誦したと言われる稗田阿礼。その阿礼を祀る奈良県大和郡山市稗田村の直系である僕は、今回の地震と原発によって失われ、変わらざるをえなくなった「ことがら」を言葉に、物語にすることこそ、使命であると思っています。

というわけで「かざかみパンチ」。いよいよチケットも売り出しが始まりますが、内容は今のところこんなところです。随時また具体的にお知らせしてまいります。HPや松村のツイッターなどで、カムカムや松村の動向を追いつつ、楽しみにしていただければと思います。
 
 
 
 
 
 
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